石油危機にゆれるサウジアラビア情勢

石油危機にゆれるサウジアラビア情勢

リビアの混乱は国際石油市場に大きな影響を与えた。たとえば、三月二日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、同国情勢の緊迫化などを背景に急伸し、米国産標準油種ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の四月物は前日終値比2.60ドル高い1バレル102.23ドルで終了している。

 

2008年9月下旬以来、約二年五ヵ月ぶりに100ドルを上回る高水準での終値であった。ほぼゼロとなったリビアの石油生産・輸出を補ったのが約320万B/Dの余剰生産能力(当時)を持つサウジアラビアであった。しかし、そのサウジアラビアでも二月頃から政情に不安な動きが出ている。同国の反政府運動に大きな影響を与えているのが、先に見たバハレーンでのシーア派住民を中心とする民主化要求の動きである。

 

周知のように、サウジアラビアとバハレーンは長さ二五キロメートルの橋梁で結ばれている。サウジアラビアはスンニ派を信奉する国民が大多数を占めるものの、国内にはシーア派教徒も10〜15%存在する。彼らもバハレーン同様、サウジ国内で差別的な扱いを受けている。問題は彼らの大半が油田の集中する東部地域に居住し、国営石油会社アラムコの従業員の少なくとも約四割を占めている点である。彼らの中にはバハレーンに親戚を持つ家庭も少なくなく、バハレーンの動静には敏感である。仮にサウジ東部のシーア派住民がバハレーンの動きに触発される形で大規模な反政府デモを起こせば、石油の生産・出荷に影響が出かねないだけに要注意である。

 

同国では知識人による民主化要求も顕在化している。事実、モロッコで病気療養していたアブドゥラ国王の帰国を待っていたかのように、二月二十四日、数百人が署名する政治・経済・社会改革を求める書簡が提出され、国民の選出する諮問評議会の設置や腐敗の根絶の徹底化等を要求している。これに先立つ二月七日には、弁護士や大学教授、政治活動家等の10人が、ウェブサイトを通じて同国では禁止されている政党「イスラムーウンマ党」を結成し、許可を求める書簡をアブドゥラ国王に送付している。

 

民主化要求に直面するアブドゥラ国王は、帰国当日の2月23日及び3月18日の二回にわたり、総額5000億リヤル(約1333億ドル、12兆円弱)に上る新社会経済対策を打ち出した。ただし、国民の間に僻積する不満を和らげるために経済的恩典を拡大する政策が大半を占めていた。例えば、公務員給与の15%引き上げや全公務員への二ヵ月分の給与相当の現金の一時支給(対象には軍人も含まれる)、失業者向け月間給付金2000リヤル(約533ドル、約4.8千円)の支給、公務員向け月額最低賃金3000リヤル(約800ドル、約72000円)の新設等々がこれに当たる。

 

だが、こうした政策について、例えばシーア派教徒の多くが居住するサウジ東部の人権活動家ジヤアファルーシャイエブ氏は「政治改革や選挙、政府の変革に関するものは全く見られない」(『アラブーニューズ』紙、2011年3月19日付)と語り、建白書が求める政治改革には何ら言及しておらず真の国民の要望に応えるものではないとの厳しい見方をしている。

 

ところで、2010年の国際石油市場を改めて振り返ってみると、先進国に積み上がった在庫の取り崩しを目指して石油輸出国機構(OPEC)が生産量の抑制を続けたことから、供給がわずかながら需要を下回っていた。明らかなように、その中でサウジアラビアの産油量は世界の合計供給量の10%弱を占めた。さらに、2010年3月時点でのOPECの余剰生産能力は約545万B/Dであったが、サウジアラビアの余剰生産能力だけで全体の約六割を占める。仮に同国の政治的混乱によりこれが失われるような事態になれば、原油価格は既往ピークの147ドル強(08年7月上旬)を超えて上昇しよう。筆者はサウジアラビアで不測の事態の発生する「蓋然性」は高くないと考える。しかし、「可能性」を排除することはできないので、今後の国際石油情勢を考えるに際しては同国の国内の動向に目を配っておく必要があろう。